水の迷宮
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/10/20
- メディア: 新書
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (85件) を見る
石持浅海は独特の世界を持つヒトです。
「アイルランドの薔薇」「月の扉」と読んで、これで3作品目。
全体のトーンは上品で逸脱がありません。
シチュエーションを、『読ませる』つくりにするのが巧い。トリックは横においておくとして、結末のつけ方が、超然としています。法や、モラルや、そういったところから乖離している感がある。だからパシっと結末をつけて欲しいヒトには、ちょっと物足りないかもしれない、と思うけど。
けど、けど、よく売れているらしい。どこでも評判は上々。ということは、多くのヒトが、この逸脱のない世界観や、超然とした結末を受け入れているってことなのかしらん。
たしかに、現実は逸脱ばかりで気を抜けないし、法やらモラルと言われているものや、しがらみやらに縛られまくりだから、こうした作品がいいのかもしれない。
さて、この作品について。
ミステリーを書いているヒトの何割かは、自分の論説や夢想を発表したいがために、ミステリーを書いています。
高橋克彦のデビュー作なんかソレ。大学で浮世絵を研究していたのですが、浮世絵の論文がさっぱり読まれない。そこで、ミステリー仕立てに書いたら、作品も、浮世絵自体も、そして研究論文本も大ブレイクしたというのは有名な話。京極夏彦もこの部類。ダヴィンチ・コードも読んでないけど、たぶん、そう。
この作品もそうだろうなぁ、と思わせる「夢の水族館」が出てきます。正直いって、この水族館のプランだけでも楽しめました。タイトルの「水の迷宮」はその水族館にささげられた呼称ですが、ほんとうに、これがロマンチックったら。
こんな水族館があったら、地の果てにあったって、ゼッタイ行きますって、いう、ステキなプラン。どこか実現してくれないものでしょうか。
前述に「トリックは横において」、とあるのはトリック周りのディティールが気になるから。
まだ読んでいないヒトは以下は、読まないほうがいいかもしれません**
たとえば・・・
- 首を絞められたヒトが、死にそうな目にあっているのに、抵抗の際つくであろう(狭いところで争った、という状況)怪我を一切していない。首に絞められたあざもない。
- やむなく突発的に殺人にいたったヒトが、その後、周囲の説得と状況から、最初の犠牲者の夢を実現するため奔走する、という役割を振られるのだけど、いくらなんでも、ヒト一人殺しちゃったのに、かけらもその重さを感じさせない。
- 殺されちゃったヒトの恋人が、その恋人が殺されちゃったことを納得しすぎ。どんな事情があれ、突然恋人が死んでしまったら、殺されてしまったら、こんな風に振舞わないのでは、と感じさせる。
などなど。
この辺を裏読みすると、本当は首なんて絞められてないんじゃないの? 最初から殺人するつもりだったのでは? 恋人っていったって真実は別に? なんて別の結末にミスリードされそうになります。
こういったディティールに、リアリティがつくようになると、More better。
今後を期待しています。