水の迷宮

水の迷宮 (カッパノベルス)

水の迷宮 (カッパノベルス)

石持浅海は独特の世界を持つヒトです。



アイルランドの薔薇」「月の扉」と読んで、これで3作品目。



全体のトーンは上品で逸脱がありません。



シチュエーションを、『読ませる』つくりにするのが巧い。トリックは横においておくとして、結末のつけ方が、超然としています。法や、モラルや、そういったところから乖離している感がある。だからパシっと結末をつけて欲しいヒトには、ちょっと物足りないかもしれない、と思うけど。



けど、けど、よく売れているらしい。どこでも評判は上々。ということは、多くのヒトが、この逸脱のない世界観や、超然とした結末を受け入れているってことなのかしらん。



たしかに、現実は逸脱ばかりで気を抜けないし、法やらモラルと言われているものや、しがらみやらに縛られまくりだから、こうした作品がいいのかもしれない。



さて、この作品について。



ミステリーを書いているヒトの何割かは、自分の論説や夢想を発表したいがために、ミステリーを書いています。



高橋克彦のデビュー作なんかソレ。大学で浮世絵を研究していたのですが、浮世絵の論文がさっぱり読まれない。そこで、ミステリー仕立てに書いたら、作品も、浮世絵自体も、そして研究論文本も大ブレイクしたというのは有名な話。京極夏彦もこの部類。ダヴィンチ・コードも読んでないけど、たぶん、そう。



この作品もそうだろうなぁ、と思わせる「夢の水族館」が出てきます。正直いって、この水族館のプランだけでも楽しめました。タイトルの「水の迷宮」はその水族館にささげられた呼称ですが、ほんとうに、これがロマンチックったら。



こんな水族館があったら、地の果てにあったって、ゼッタイ行きますって、いう、ステキなプラン。どこか実現してくれないものでしょうか。



前述に「トリックは横において」、とあるのはトリック周りのディティールが気になるから。



まだ読んでいないヒトは以下は、読まないほうがいいかもしれません**



たとえば・・・


  • 首を絞められたヒトが、死にそうな目にあっているのに、抵抗の際つくであろう(狭いところで争った、という状況)怪我を一切していない。首に絞められたあざもない。
  • やむなく突発的に殺人にいたったヒトが、その後、周囲の説得と状況から、最初の犠牲者の夢を実現するため奔走する、という役割を振られるのだけど、いくらなんでも、ヒト一人殺しちゃったのに、かけらもその重さを感じさせない。
  • 殺されちゃったヒトの恋人が、その恋人が殺されちゃったことを納得しすぎ。どんな事情があれ、突然恋人が死んでしまったら、殺されてしまったら、こんな風に振舞わないのでは、と感じさせる。

などなど。



この辺を裏読みすると、本当は首なんて絞められてないんじゃないの? 最初から殺人するつもりだったのでは? 恋人っていったって真実は別に? なんて別の結末にミスリードされそうになります。



こういったディティールに、リアリティがつくようになると、More better。



今後を期待しています。