「風味絶佳」山田詠美

風味絶佳

風味絶佳

山田詠美の最新作です。前作「姫君」で、新たなるエイミィワールドを展開した山田詠美の最新作だけあって、装丁から気合はいりまくり。



わたくしの経験からすると装丁から気合が立ち上っている本は、かなり面白い本です。関係者が「こんな内容なら気合を込めてつくらねばっ!」って思うからね。



そして、その期待を裏切らない一冊でした。



肉体を使う労働者の周辺の恋愛短編集、というのがこの本のテーマ。なんですが、そう書いたとたん、本の内容がとりこぼれていって、ひとかけらも残らない気がしてしまいます。



ヒトの人生から、いろんなものをはぎ落として、でてくるコアなものを、そおっと取り出して、そこから滴ってくるものを、掬い取って見せてくれる、そういった短編で、さすが、ベテラン大作家(山田詠美がベテラン大作家って感じる時代なんですねぇ)。文章、構成、物語の焦点と、どれをとっても完璧です。


ただ・・・。ただ、と文句をつけるわけではないのですが、あまりに巧すぎて、全部ではないけれど、何編か、勢いがないというか、あまりに落ち着きすぎている作品も。



他の、そう、たとえば湯本香樹実あたりが書いても不思議じゃないような印象(落ち着いて、どこか諦観しているような、というニュアンスで)のものがあり・・・。


それも作家として成長なんでしょうけど、ちょっと寂しかったです。