アリス(中井拓志 )、彼岸先生(島田雅彦 )
タイトルのつけ方というのは、大切だと思う。
今手に入る本として、日本書籍出版協会一般社団法人 日本書籍出版協会 | 一般社団法人 d日本書籍出版協会の出版年鑑+日本書籍総目録に収められている書籍数は65万件あまり。
ここから読みたい本を見つけるのに、雑誌や、ネットのレビュー、友人らの口コミに頼るのはモチロンのこと、最終的には書店に並んだタイトルやら装丁にひかれて手にとることもある。
なので、タイトルのつけ方はとても大事。
あの大ヒット作(読んでないけど)「世界の中心で愛を叫ぶ」も最初作者がつけたタイトルは「ソクラテスの恋人」で、たぶん、そのままだったら、あれほどまでのヒットはしなかったはず。(編集者がタイトルをつけなおした)
というわけで、タイトル。今回は、たまたまなんだけど、タイトルについてヒトコト言いたい、という2冊になっちゃいました。
アリス―Alice in the right hemisphere (角川ホラー文庫)
- 作者: 中井拓志
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/03/01
- メディア: 文庫
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ひとつはこれ。角川ホラー文庫10周年記念で出ていたもので、ホラーにはあまり手を出さないuniが珍しく手に取りました。
「アリス」というのはいかにもありふれたタイトル。そういう意味では目を引きます。
でも、かなり買おうかどうか迷いました。
なにしろ、アリス。
ルイス・キャロルの名作があまりにすばらしすぎて、さまざまな寓話が発生しているあの、アリス。それを冠する小説やらノンフィクションやら、ハウツーものやらがごっそりです。正直、それがタイトルでは手抜きっぽい感じを受けます。
購入の決定打は帯にあった「その笑顔は世界を破壊する」で、そこまで言うなら、読んでやろうじゃないの、という、売り言葉に買い言葉状態で買いました。
ということはタイトル成功しているんですね(笑)。結局手にとって、買っちゃったんだもん。
さて、内容ですが、イントロがものものしい描写で少々入りにくかったのですが、いったんはいりこんでしまえば、一気に読んでしまうパワーがありました。
あらすじは、ある少女の歌声を聞くと、人々がばたばたと倒れていき、ほとんどが致死となる事件があった。その少女を解放させないための施設がつくられたが、7年後、少女が14歳になったとき、再び少女の歌声が響いた。それなりの措置をとっていたその施設であったのに、スタッフも全滅。少女は市街へとさまよい出てしまう、とうもの。
少女の歌声の正体とは?
通常の視覚と言語で捕らえられ、世界観を共有する「この世界」と、彼らの見る「高次元の世界」とのせめぎあいが、右脳と左脳のシステム問題、人の世界観の構築方法などが、スリリングな展開の中に、主要な要素としてちりばめられ、なぜ、彼女の歌声で世界が破壊され、人が死んでいくのか説得力を持って迫ってきます。
全体はホラーに収めようとしたせいか、ありふれた展開っぽいのが惜しいのですが、アイディアと攻め方がウマイ! こういう展開じゃなくて、もう少しSFよりにしてもよかったのでは、と思っちゃいます。でもSFだと、売れないんでしょうね、きっと。
キーワードは自閉症のサヴァン能力という、ある事柄に対して特化された才能。
レインマン(映画)の一瞬にして数を数えてしまったり、カレンダーなしで日付と曜日があってしまったり、写真のように絵が描けたりする、あの能力です。
このところ読んだ「神狩り2」(高次元の存在に挑むスーパーSF)や、前々回の「光とともに」(自閉症児を持った親を描くマンガ)、「火星の人類学者」(脳神経科医のエッセイ)などを読んだアトでよかった。
自閉症が、実は世界の認知のしかたの問題であることを、こうした本などで、なんとなく理解しかけているところで、ようやく、この作品の面白さが理解できた感じです。
・・・一度これを書いてから気がついたんだけど、歌声を聞くから脳のシステム強制更新が行われるのなら、声を聞かなければいいのでは? ヘッドホンひとつで防護できたのでは?
笑顔がダメなら、赤外とか偏光カメラなどを通して接すればいいのでは? とか、いまさらな疑問がいくつか・・・。
そんなこと考える暇がないくらい、一気読みさせられた証拠ですね(苦笑)。とにかく、アイディアとその展開にはとてもパワーがありました。
蛇足だけど、アリスで脳、とくると星野宣之がそうした短編作品を描いていたんだけど、タイトルも書名も思い出せないのがツライ。
- 作者: 島田雅彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/05
- メディア: 文庫
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次はコレ。
島田雅彦は食べ物エッセイ作家だと思っていたら、小説家だったんですねぇ(暴言)。
すごくよかったです。
タイトルが古臭いのに、まぁまぁ売れたそうですが、タイトルをセカチューみたいに今風にすれば、村上龍氏並に売れたんじゃないでしょうか(これも暴言)。
自己の存在を求め、求めて、恋愛遍歴を繰り返し、それでも得られないものを求めてついには何もかも捨てようとするその生き方を、「弟子」という存在を持って語らせる。
弟子と師匠という関係そのものが、性欲なしの恋愛みたいなもので、他者を知り、己と同化するほどに求める、という行為であるとすれば、小説の成り立ちそのものが、究極の恋愛小説であり、究極の探求物語でもあるという構造。
こうしたしかけも凝っているのに、漱石をかなり意識したような古い小説っぽく装っているのがまた凝っているというか。・・・マニアな一冊。