ピカレスク - 太宰治伝

ピカレスク - 太宰治伝 (日本の近代 猪瀬直樹著作集 4)

ピカレスク - 太宰治伝 (日本の近代 猪瀬直樹著作集 4)

井伏鱒二の「山椒魚」ってば、中学の教科書にのっていて、「このときの山椒魚の気持ちは?」って先生に聞かれたら、「両生類の気持ちなぞわからん」て・・・、返したくなりました?



お約束だって、言うんですよぉ。とある知人がぁ。。。




あの「山椒魚」読んだのは、わたしがジュブナイルを卒業する時期と重なっていて、「大人向けの小説でも、動物が主人公で寓話的ってありなんだ、わかりやすくていいなぁ」って思ったのを漠として記憶しています。



その後、「黒い雨」も読んだはずですが、重い文体と暗い印象しか覚えておらず、井伏鱒二といえば、「山椒魚」書いたヒトで、他にもいろいろ書いて文壇に認められていたエライ作家らしい、ぐらいの認識にとどまってしまいました。



一方、太宰治はわかりやすくて、けっこうはまり、高校1年ごろだったか、書店で出ていた文庫本は一通り読んでました。



人間失格」はタイトルもインパクトがあり、本人もこれを最後に本当に女性と心中事件をおこして亡くなったというので、風潮的に、「これを読むと死にたい気持ちになるらしい」という、ちょこっとホラー的な扱いを受けていました。



確かに、これでもか、これでもかと自嘲的に内面をえぐったり、どこまで堕ちていくのかと思わせる物語が面白く、次の作品に手を伸ばし、伸ばしなどしているうち、「女学生」がお気に入りに。



これは、まさに女学生の頃読んで同調できた、素直な女学生の一日のお話ですが、作家としてこれも書けるなんて、力量あるなぁと認識させるには十分な作品でした。



井伏鱒二太宰治。かたや高尚な(重く暗い)作品を多く残したイメージ、かたや文学のために自滅していく破滅型作家(でも作品はわかりやすい)。


そんなイメージを抱いていませんでした? わたしは二人の作品(特に井伏鱒二)をあまり読み込んでいないし、そんな風に思ってました。



猪瀬直樹の「ピカレスク」は、この太宰治が入水自殺をした際、残した走り書き「井伏さんは悪人です」という言葉の謎を追う、本格評伝ミステリー。


最初に太宰の入水シーンが来て、走り書きが出てきて、「なんで井伏鱒二が出てくるの?(そもそも交流があるなんて知らなかった)なんであのお堅そうな作家が悪人って遺書に書かれるの?」と興味を引かれたところで、物語にぐいぐい引き込まれ、中盤あたりから、コンゴン、バコバコと、2人に抱いていた先入観を粉々に打ち砕かれます。


出版当時、かなり多くのヒトがその辺の先入観をがつーんとやられた感じだったのでは。だって、わたしが覚えている限りでも、すごい絶賛書評の嵐だったんですもん。



井伏鱒二は全然売れない作家で、盗作というか、引き写しみたいな感じで物語つくって、なんとか日々しのいでいる雑文家として暴き立てられているし、一方太宰治は破天荒ではあるけれど、生きること、文壇で身を立てることに執着する、けっこう愛嬌のある作家だし。。。



前出の「山椒魚」もロシア作家サルティコフの「賢明なスナムグリ」をかなり引き写したつくりになっていることを、この作品の中でズバリ!暴いていて、井伏先生かたなしです(苦笑)。



ってわけで、この経緯、非常にスリリングで、ミステリーといっておつりがくる感じです。



ほとんど一気読みしてしまいました。

 



ところで、「本格評伝ミステリー」・・・帯に書いてあったんですが、すごいネーミングです。でもコレしかいいようがありません。コピーライティング、グッジョブ!





最後の最後におまけなんですが・・・。



太宰治の入水自殺ですが、当時玉川上水で自殺するヒトがけっこういて、水道局の人たちは、騒ぎが起こるたびに怒っていたとか。



上水っていうからには、そこから水道水をとるんです。


その水、飲まされるんですよ?=>>東京都民